長かったウシュビッツへの「想い」

 中学生の時に初めてナチス(ヒトラー)と、その所業を知りました。その時からずっとずっと、こころがざわついていました。

どんなところだろう?

 本当に、そんなことがあったのかしら?

 行って、自分の目で見て、肌で感じたい…

 でも、こころがいたい・…

 20代前半から、多くの国を旅しているわたしですが、こんなことをいつも考えて、感じて、アウシュヴィッツに行く勇気は持てずに、時間は流れました。

 2020年、やっと重いこころに折り合いをつけ、訪れることができました。

 これまで、多くの映画や画像、映像などでアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の様子は見てきていましたし、大きなこころがまえをしての訪問でしたが、実際その場に立つことは、想像以上にこころいたむことでした。

 ひとは、わたしたちは、環境と状況、時の流れに巻き込まれたのなら、あれほど残酷なことができるのだと、震えました

現実のアウシュビッツー敬虔さともにー

 画像は、有名な収容所入り口にある、スローガン「働けば自由になる」です。

ヨーロッパ各国のゲットー(主にユダヤ人が強制的に住まわされた居住地域)から、貨車に詰め込まれて辿り着いた方たちは、このスローガンを見てどれだけほっとしたことでしょうか?

 少し話が逸れますが、世界中の世界遺産の多くには「公式ガイド」さんが配属されています。日本のツアーでは、添乗員が同行していても、もうひとり現地のガイドさんが付きます。

観光は、主にこの現地ガイドさんに案内をされます。ほとんどの国は、現地ガイドさんは

国家資格のライセンスを持っており、観光地のみならず現地国の歴史や生活なども教えてもらえます。英語ガイドが多く、それを添乗員さんが日本語に通訳します。

 今回は、ポーランド人の現地ガイドさんでしたが、文法もボキャブラリーもほぼ完璧な日本語を話す方で、恵まれていました。ですが、その他に「公式ガイド」さんが付くのです。

正直、公式ガイドさんと言っても???と感じることが少なくありません。例えば、今回

他の場所でついた方は、とてもチャーミングなポーランド女性で日本語を話しましたが、その日本語が小学校低学年レベル(スミマセン)でしたし、声もくぐもっていて聴き取りにくい、そんな感じでした。というわけで、ぶっちゃけ当たりはずれがあるのです。

 それを踏まえて、今回のアウシュヴィッツ=ビルケナウの公式ガイドさんは、大当たりでした。この道30年のベテランで、ご指名も多くひっぱりだこなのだそうです。英語は話さずポーランド語でしたが、その内容は深く、私たちの現地ガイドさんの通訳を介しても、怒りと悲しみと情熱が感じられるものでした。

  その方が繰り返し語っていたのが、

「ここは、お墓です。敬意と静かなこころで臨んでください」ということばでした。

 実際に、現在一両残って展示されている貨車の車両の前で、自撮りをしていた観光客に厳しく注意をしていました。

 この貨車で送られた人たちは、「選別」されました。労働が可能だと判断されるとビルケナウ収容所へ収容され、そうでないとガス室に送られました。

 わたしが訪れた前夜、雨が降りましたが、ビルケナウ周辺はぬかるんでいました。

元々、湿地に建てられた収容所だそうで、少しの雨でぬかるむのだそうです。

 建物内の、三段のベッド(と言えるのか…)の一番下は、ほとんど地面と同じ高さなので、
ぬかるむと泥などが流れ込み、不衛生極まりなかったそうですが、この一番下のスペースに病気だったり、身体に問題のある収容者が寝かされてれていたそうです。

 わたしたちでさえ、医療が受けられる環境の中でさえ、健康を害されると不安で心細くなることが少なくありません。ましてや、ここに収容されていた方がたは、満足な食事も与えられず、寒さに震え、治療も受けられず不衛生極まりない環境の中で、周囲のひとたちもご自身のことで精一杯、そんな中、どのような想いを抱いておられたのか…

 ひとがひとに対してできることではなく、わたしは自分の気持ちを表すことばが見つかりません。

 アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所では、一番多く収容されていた(=犠牲になった)のはユダヤ人ですが、次に多かったのがポーランド人、そしてロマ(ジプシー)だったと聞きなした。

 なぜわたしが、「ロマ」にひっかかるかというと、占いに使うタロットカードは、ロマと深い関係があると、言われているからです。タロットカードを学んでいた時に、タロットの歴史も聞きました。現在に至る大きな流れをつくったのは、イギリス発祥の秘密結社「黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)」で、錬金術や魔術をしていたところだったそうです。

私の記憶にある、こうしたタロットカードの歴史の中に、ロマというワードは登場していなかったのですが、後にいろいろなところで耳にするようになりました。

 そもそもタロットカード占いを、日常的に使用しているのはロマのひとたち、

ヨーロッパやアメリカのタロットカード占い業界は、ロマが仕切っている…等々

 そのため、真偽のほどはともかくとして、長い歴史を持つ流浪の民・ロマは、わたしの感覚からしても、タロットカードが似合う気がして、印象に残っていたのでした。

 アウシュヴィッツの博物館の中には、多くの記録写真が展示されているのですが、その中にロマが連行されている写真がありました。アウシュヴィッツの犠牲者は、ユダヤ人だけだとばかり思っていた無知なわたしに、ガイドさんが教えてくれました。

 なぜロマがナチスに迫害されたのか…

そもそもヨーロッパの歴史の中で、偏見によりロマは差別と迫害を受けていたそうです。加えてナチスは、ロマを劣った人種と決めつけ、仕事嫌いで反社会的、生まれつき軽犯罪を犯しがちな人種として標的にしたそうです。定住せずに、流浪することからスパイのレッテルを貼り断罪したそうです。特筆すべきは、ナチスの方針としてロマ迫害が叫ばれることで、収容所の外でも、多くのロマが射殺・殺害されていたとのことでした。

偏見による ロマの迫害を考える

 なぜ、ひとは偏見を持つのでしょうか?

例えば、生育環境の中で間違った見方を覚えてしまった、

他の民族や宗教について、歪んだ見方を意図的に植え付けられてきてしまった、

ナチスに代表されるような国家全体主義や、宗教上の偏った見方を教えられてしまった、

 こんなことが、原因になってきているのでしょうか…

 では、どうしたらそうした偏見を持たずにいられるのか、あるいは持った偏見を払拭できるのでしょうか?

 その答えは、わたしは案外シンプルなのではないかと、思うのです。

創造力を持つ、これにつきます。

 他者に対しての想像力を豊かにすることで、どんなことを考えているのか、どんな気持ちになっているのか、何を望んでいるのか、どんなことが嫌なのか、どんなことが嬉しいのか、自分のこころに問うように、相手のこころを聞こうと、感じようとすればいいのではないでしょうか?

誰かの目線で、自分を見てみるのもいいかもしれません。そこには、こころに不純なものを隠し持つ、見苦しい“わたし”が映るかもしれません。

相手のこころを推し量ることで、こころを通わせ、人間の特技である会話を使って、さらに寄り添えるのではないかと、わたしは思います。

まとめ

 世界中、旅をしていると本当にさまざまなことを考えさせられますが、今回のアウシュヴィッツ=ビルケナウ訪問は、大きな衝撃とともにわたしを圧倒しました。

 人間の持つ醜い部分―例えば、支配欲であったり、独占欲であったり、物欲であったり、根拠の希薄な優越感であったりーが、巡りあわせとタイミングによって、目に見える形で表に現れた時、悲劇がおこる…それが、ナチスがつくった強制収容所なのだと思います。

 親族を強制収容所で亡くした経験を持つユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントは、ナチスの所業について、「悪の凡庸さ」ということばで表現しています。

 悪事を行う多くの者は、小心で平凡な人間が起こすことだと言うのです。

 ということであるなら、誰にでも、いつでも、わたしたちは「ナチス」になる可能性を秘めていると言えるでしょう。

 アウシュビッツが負の世界遺産として存在し続ける理由は、ここにあると思うのです。

 いつでも、「悪の凡庸さ」を発揮しかねないわたしたちへの警鐘に他なりません

≪上記画像は、ポーランドの名産品「イースターエッグ」です。ハンドペイントされた卵(の殻)を復活祭(イースター)の日に飾って祝います。この綺麗な卵に、過去の悲劇を悼む気持ちが込められていると感じるのは、わたしだけでしょうか?)

 お互いがお互いを思いやれる、こころ穏やかな世界を築いていきたいと、切に願います。